遠視(Hyperopia)

平行光線が無調節状態の眼に入ったとき、網膜より後方に結像する屈折状態
                 所敬・金井淳 『現代の眼科学』 (金原出版)


遠視の場合、ある程度の度数なら、遠くはよく見えてしまいます。そのため「眼がいい」と判断されてしまいがちですが、そこに落とし穴があるのです。実は、眼に負担がかかっています。
お子様の遠視の場合、本人は自覚症状を訴えないので見過ごされやすいですが、左右で大きく度数の違う遠視の場合は、特に注意が必要です。

ある程度までの遠視なら、遠くまで、よ~く見えます。
視力2.0だったりします。
何も問題がないように思えますが、
眼の中で何が起こっているのでしょうか?




実は、遠視というのは、調節をしていない状態の時には、無限遠方の物体は、網膜より後ろにピントが合ってしまっています。


つまり、調節をしていない状態では、こんな感じにボケて見えてしまうのです。
これでは具合が悪いですから。。


水晶体を膨らませて調節することにより、網膜上に無理矢理ピントを合わせるのです。


そうすれば、遠くの物体にピントがしっかり合うので、よく見えるわけです。


近視同様、遠視の成因は「軸性」「屈折性」に分類されますが、明確な判断は難しいようです。

「近いところのものを見ようとするとき、眼は調節をしています」と「調節」の項で解説しました。
遠視の場合は、遠いところを見ているときも、調節をしているのです。
近くを見るときは、遠くを見るときよりも、もっと調節をしています。
つまり、一日中、眼を開けている限りは調節をしているわけです。

調節力が十分あって、遠視の度数が軽度なら、それほど負担には感じないかもしれません。

しかし、遠視の度数が強かったり、調節力が少なくなってきたりすると、遠くにピントを合わせることが苦痛になり、遠方の視力が低下します。
仮に遠くは一応はっきり見えたとしても、手元は遠くよりもっと調節が必要ですから、見にくさを感じます。

遠視の度数が弱度なほど、そして年齢が若いほど、遠方・近方の視力自体には影響が出にくいです。

 

遠視の度数が強いほど、そして年齢が増加するほど、遠方・近方どちらの視力にも影響が出てきます。
 

遠視を矯正するためには、レンズの中央が厚くて、縁が薄くなる、「プラスレンズ(凸レンズ)」を使用します。



●遠視の落とし穴
遠視というのは、絶えず眼の筋肉を使って調節をしている眼です。
とても疲れますし、まぶしさを訴える人も多くおられます。
眼が疲れたり、肩が凝ったり、そんな状態が続けば、だれだってイライラしてきます。
子供さんであっても同じです。

「本を読みたがらない」「落ち着きがない」そういう子供さんには、往々にして遠視がある場合があります。
近視であれば、学校の視力検査で引っかかりますので発見されやすいですが、遠視の場合は特に遠方視力においては「良好」という結果になってしまいやすく、ついつい見過ごされてしまいます。

また、片方の眼に、より度数の強い遠視があり、それを放置したまま幼少期を過ごしてしまうと、遠視が強い方の眼の視力が向上せず、いわゆる「
弱視」という状態になってしまう場合もあります。
なぜ、そうなってしまうのか。。。
ポイントは、「両眼をあけて物を見ているとき、左右別々に調節を働かせることはできない」という特性にあります。
これについて、少しお話ししてみたいと思います。

ある子供さんが、本来は下画像のような状態だったとしましょう。


右眼・・・正視
調節をせずに、遠くがよく見える


左眼・・・4段階の遠視あり
調節をしなければ遠くが見えない


通常の視力検査は、片眼を閉じて行いますね。
この子供さんの視力検査が、どのような結果になるかというと。。。。。

右眼・・・視力1.0以上


左眼・・・視力1.0以上
(ただし、4段階の調節をしている)



片眼ずつ測定した場合、左右ともに1.0以上見えているという判断をされてしまいます。

この子供さんの場合、遠くのものを見ようとするとき、右眼は調節なしで大丈夫ですが、左眼は4段階の調節をしないといけません。
片眼で遠くのものを見ている場合は、それぞれの眼に必要な量だけ調節をすることができます。

しかし、両眼で見ているときは、右眼は調節なし、左眼は4段階の調節、というふうに左右別々に調節をすることはできません。
人間の眼は、左右の調節量が同じで、かつ、できるだけ調節が少なくすむように働きますので、この場合なら左右ともに調節なしで物を見ようとします。

その結果、右眼でははっきり見えるけれど、左眼はぼやけた状態になります。
本当はそのように見えているのです。
はっきり見えているのは右眼のおかげで、左眼は常にぼやけているのです。

仮に両眼を開けて検査をしても、右眼がよく見えているので、実際は右眼でしか見ていないにもかかわらず、視力1.0以上と判断されてしまうはずです。

このような理由で、
特に弱度の遠視であるほど、一般的な視力測定では見過ごされやすいわけです。

ちなみに、近いところを見るときも、同じことが起こります。
たとえば眼から40cm前にある物を見ようとするとき、この子供さんの場合は、理論上、右眼では10段階の調節をすることになります。

一方、左眼はもともと必要だった4段階の調節から、さらに10段階の調節が必要なので、あわせて14段階の調節をすることになります。

両眼で見ようとする場合、調節力が弱くなるように眼は働きますから、右眼にあわせた10段階の調節しかしてくれません。そのため、左眼はぼやけた状態になってしまうのです。

両眼を開けて見ているぶんには、問題ないように感じるけれど、実際は・・・・・



左眼はぼやけていて


右眼でのみ、はっきり見えているのです。


このように、遠視の度数に左右差がある場合、遠くも近くも、度数が弱いほうの眼で物をはっきり見ていることになるのです。

そういう見え方をしている場合、大人であれば「何かおかしい」と気づくでしょうが、子供さんの場合、最初からそういう見え方をしていれば「そういうものだ」と思ってしまうでしょう。


そういう見え方が当たり前、という状態でずっと過ごしていれば、左眼はいつもぼやけた景色しか映りません。
左右の見え方が不均衡では遠近感が狂いますので、運動する上で支障があります。
何よりも、左眼の「見る力」が一向に養われません。

そのまま放置しておくと、いざメガネをかけようと度数を合わせても、左眼は十分な視力が得られなくなってしまいます。
これが「左右の度数差がある遠視による弱視」が起こるメカニズムです。

なお、このために「弱視」になるのは、左右の眼におよそ8段階以上の度数差のある状態が、9歳くらいまで放置されているようなケースが多いようです。もちろん、これには個人差がありますので、絶対的なことは言えません。


遠視を見逃さないためには、屈折検査を受けることが大切だと思います。
遠視を発見しやすくするためには、検査中に調節が働かないようにすることが必要です。
そのためには、
①薬を用いて、調節機能を麻痺させる
②両眼を開けた状態で、右眼・左眼それぞれの度数を測る

のどちらかの方法が有効です。

前者はお医者様のみに可能な方法、後者はメガネ店でも可能な方法です。
個人的見解ですが、低年齢の子供さんほど、前者の方法が適切ではないかと考えます。

なお、前述のように、遠視を矯正するためには凸レンズを用いるわけですが、度数が強くなればなるほど、レンズ中央部の厚みが増していきます。

お子様の遠視のメガネにおきましてはレンズの厚みをいかに薄くするかということが、キーポイントになります。
それについては こ ち ら をご覧ください。

また、凸レンズを装用することで、外見上、目が多少大きく見えることがございます。
これについては こ ち ら をご覧ください。



※このページの記述の一部は、子供メガネ研究会会員店の「メガネの一心堂」ホームページより転載させていただいております。



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