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斜視と斜位(隠れ斜視) 
私たちが両眼で物を見ようとするとき、右眼と左眼の視線は、見ようとする物体に向けられます。
見ようとする物体に、両眼の視線を合わせること、これが「両眼のチームワーク」です。
遠見 近見
遠見の図 近見の図
近くのものに視線を合わせるためには、両眼を内側に寄せないといけません。
両眼のチームワークが取れていれば、遠くを見るときも、近くを見るときも、両眼の視線は見る物に向かっています。
両眼の視線をコントロールするには、眼を動かしている各眼6本、計12本の筋肉(外眼筋)のバランスが整っていなければなりません。
何らかの事情で、その筋肉のバランスが乱れたとき、左右の視線はズレてしまいます。
この「視線のズレ」について語るために、「斜視」と「斜位」について解説をしてみましょう。
斜視 (Strabismus,Heterotropia)
両眼の視線が目標に向かって交叉せず、一眼の視線が目標とは別方向に向かっている状態」 丸尾敏夫・粟屋忍『視能矯正学』 金原出版
正常
    目標物に対して、左右の視線が揃っている状態
右外斜視 左外斜視
  右外斜視のイメージ
(右眼が、目標物より外側を向いている状態)
   左外斜視のイメージ
(左眼が、目標物より外側にズレている状態)
斜視は、どちらの眼がズレるのか(左右交互にズレる場合もあり)、どの方向にズレるのか、恒常的にズレるのか間欠性なのか、先天的なのか後天的なのか、原因は何か、などによって細かく分類されます。

ごく簡単に言えば「両眼をあけているときに、片眼の視線がズレている状態」といった感じでご理解ください。
では、斜視があると、どのような見え方になってしまうのでしょうか。
複視と混乱視
本当は星を見たいのだけれども、右眼が星の方へ向かず、ハートへ視線が向いてしまっています。

このような状態では、星が二つ見えたり(複視: Diplopia、星とハートが重なって見えたり(混乱視: Visual Confusionしてしまいます。
このような状態が恒常的に起こると、非常にうっとうしいので、感覚適応が起こります。
抑制
一個の星が見えればよいので、それを妨げる右眼からの情報は不要です。

そのため、右眼から送られた情報は脳で遮断されてしまいます。

これが、抑制(Suppression)という、斜視に対する代表的な適応現象です。

ただし、片眼の情報しか脳に送られないため、抑制されている眼の「見る力」は養われません。
この状態が続けば、「斜視による弱視」が起こってしまいます。
恒常的な斜視であるほど、上記のような適応現象が起こるため、実質的には片眼を閉じて生活しているのと同じような感じになります。

そのため、遠近感とか使っていない眼側の視野の不足といった問題は生じるものの、両眼を使おうとすることによって生じる不具合は感じません。
いわば「両眼のチームワーク」を放棄してしまっている状態です。

それに対して、「なんとか両眼のチームワークを維持しよう」と頑張るために不具合が生じることがあります。それが斜位(隠れ斜視)」です。


※「斜視」は、それだけでたくさんの本が出版されているくらい、奥の深いものですので、ここでは基本的な考え方にだけ触れてみました。

斜視の治療としては、「手術」や「プリズム入りの眼鏡装用」などがありますが、そうした治療によって、斜視眼の視力回復や両眼視機能向上が見込める場合には、「視能訓練」を並行して行うことがきわめて重要です。

訓練は比較的単調ですし、一朝一夕に効果が現れるものではないため、ご家庭で毎日継続して行うことは非常に大変かとは思います。
しかしながら、どれだけ訓練をやったか否かで、成果が大きく分かれてしまうのも事実です。
前向きにコツコツ取り組んでいただくのが、大切なのです。
斜位(隠れ斜視) (Phoria, Heterophoria)
両眼視を行っているときに眼位に異常はないが、融像が妨げられたときに眼球偏位があらわれる」    大鹿哲郎 『和英・英和 眼科辞典』 医学書院   
両眼で物を見ているとき、視線のズレは発生しません。
このとき、両眼の筋肉は視線を物に合わせるために働いています。
正常
右眼遮蔽
片眼を隠したとき、隠された眼は物を見る必要がなくなるために、その眼にとって楽な姿勢(楽な位置)へと移動します。
隠されている眼の動きがわかる半透明のカバーで、見てみましょう。
半透明で右眼遮蔽 半透明で左眼遮蔽
隠された眼が、それぞれ目標物より外方向を向いています。
この位置が、この眼にとって楽な位置になります。
この状態から、カバーを外すと、、、
正常
外れていた眼の視線もきちんと揃います。
外れていた眼は、楽な位置から筋力を働かせて視線をそろえるのです。

このように、カバーをしたときにカバーをした眼が外方向を向く状態を、外斜位と呼びます。
内方向に向くのな内斜位です。

上斜位下斜位というものもありますが、この場合、たとえば右眼をカバーしたときに右眼が上方向へ動くのなら、左眼をカバーしたとき左眼は下方向へ動きます。
つまり、どちらの眼もカバーしたときに上方向(下方向)を向いてしまうわけではありません。

※カバーした眼がどちらも上方向へ向いてしまうのは、「交代性上斜位」(DVD: Dissociated Verteical Deviation)と呼ばれます。
斜視に付随して生じることが多く、通常の斜位とは区別されます。
斜位は「潜伏性斜視」、最近ではテレビの影響で「隠れ斜視」とも呼ばれますが、基本的には生理的なもの、斜位は誰にでもあるもの、とご理解ください。

斜視は「両眼視機能異常」(Binocular Disorder)と称されることもありますが、通常の斜位そのものは異常ではありません。

斜位が日常生活に障害を起こすのは、「斜位の量と、眼を寄せる力とのバランス」に問題があるケースです。

斜位により、両眼のチームワークに支障をきたしてしまう状態を「両眼視機能異常」に対して「両眼視機能不良」(Binocular Dysfunction)と称することもあります。


斜位がある場合、「眼にとって楽な位置」から「視線を合わせるために必要な位置」まで、外眼筋を働かせなければなりません。
つまり、物に視線を合わせている以上、絶えず外眼筋を働かせていることになります。


たとえば、外斜位であれば、遠方を見ているときに比べて、見る物体が近くにあればあるほど、眼を内側に寄せる必要があります。
すなわち、近くのものを見ようとするほど、外眼筋をたくさん働かせなければなりません。

そのため、斜位の程度によっては、ずっと近いところを見ていると眼が疲れてくるのです。
この疲労感は、斜位の量と眼を寄せる力の大小によって、大きく異なります。


一般に
①同じ距離のものを見るのなら、斜位の量が少ない方が、眼を寄せる量は少なくて済む
②斜位の量が同じなら、眼を寄せる筋力が強いほうが、眼は楽
ということはいえるのではないかと思います。


ただし、
①斜位の量は小さいが、眼を寄せる筋力が弱い
②斜位の量は大きいが、眼を寄せる筋力は強い
といったケースを比べると、どちらが楽かは単純に比較できません。


なお、人間は、日常生活で眼を内側に寄せる行為には慣れているので、外斜位の方が、眼を外側に向けなければならない内斜位よりも、支障のないことが多いようです。

また、「右眼を上に・左眼を下に」同時に動かすことには不慣れなため、上下斜位はわずかな量であっても、支障をきたすことが多いようです。


自分が持っている斜位の量そのものを減らすのは困難です。

斜位によって不具合が発生してしまっている場合、斜位のタイプによって幾つかの対処法があります。

①屈折異常を完全に矯正したメガネをかける
②完全矯正よりも可能な限り弱めにした度数のメガネをかける
③眼を寄せる力を補うための「プリズムレンズ」を用いる
④トレーニングによって、眼を寄せる力を鍛える
調節性内斜視 (Accommodative Esotropia)
専門的に申し上げるならば、ここで解説するのは「屈折性調節性内斜視」になります。

遠視によって誘発される調節のために内斜視となるもので、遠視の矯正によって斜視が軽減、もしくは治癒するものです。

「遠視」の項では、未矯正の遠視の場合、常に「調節」をすることでものを見ている、というお話をしました。
また、「ピント合わせの機能」の項では、「調節をすると、自動的に輻輳が生じてしまう。」というお話もいたしました。

未矯正の遠視眼が、眼前40cmのものを見たとしましょう。
この場合、ものをはっきり見ようとすると、遠視の度数に対応する分だけ、普通の人よりも大きな「調節」が必要です。

その結果、両眼は普通の人よりもさらに大きな「輻輳」を強いられることになり、
40cmよりも近いところに、両眼の視線が合わさった状態になります。

しかしながら、自分が見たいものは、40cmのところにあるわけです。
ですから、本当は40cmのところに視線を合わせたいわけです。

ところが、そのためには寄りすぎた視線を戻す「開散」が必要です。
しかし、「調節と輻輳・開散の相互関係」のために、「開散」をすると、「調節」は緩んでしまうので、はっきり見ることができなくなります。

したがって、はっきり見ようとすればするほど、視線は40cmよりも手前に合わさってしまいますから「内斜視」の状態になってしまいます。

これが「屈折性調節性内斜視」のメカニズムです。


以上を踏まえると、

①遠視の度数が強く、
②調節をしたときに自動的に誘発される輻輳の量が大きい場合
であるほど、「屈折性調節性内斜視」になりやすいと言えるでしょう。

場合によっては、遠くを見ているときですら内斜視になってしまう可能性もあるわけです。


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